2017年6月1日木曜日

獲物 表3

昨日までは意識が朦朧としていて、思い出せなかったのに、正気に戻ると、死にたくなるような記憶が溢れてきて、さいなまれた。本当に死んでしまおうかと考える絶望的な記憶だった。ソファに寝ころんだまま、何度も寝返りを打ち、子供のようにジタバタと両脚を打ち付けた。最悪だ。
 1週間前の未明に、あの男に拉致されて、訳の分からない薬漬けにされ、今朝まで犯され続けたのだ。 今でも信じられない思いだが、男である俺を、あの男は、性奴隷を扱うのように毎日何時間も犯し続けた。
 薬の所為とはいえ、俺は自らあの男を欲しがった。俺が今まで抱いたどんな女より淫乱に、欲した。目を覆うばかりの淫らな姿勢で、あまつさえ、自ら尻タブを広げて陰部をさらし、聞くに耐えない卑猥な言葉を発して、男を誘ったのだ。今、思い起こせば、死にたくなるようなことを、それも必死に。 恐ろしいことだが、自制を破壊し、一ミリの興味もない男色の世界に引きずり込む力が、あの薬にはあるのだ。
 確かに、男に犯されている間、天井の隅の方から冷めた目で、俺自身を見下ろしてるのを感じていた。己の身体をコントロールする術を奪われた、もうひとりの俺が、変態に堕ちた俺を冷たく絶望した思いで見つめていた。全ての痴態を見ていたのだ。死にたくなるのも当たり前だ。
 染み付いてしまった男の精液の匂いは消えない。冷蔵庫にある缶ビールを全て飲み干しても無理だった。それは、実際の匂いではなく、俺の精神が感じる匂いの記憶なのだ。消える筈もない。神経が麻痺しだしたのか、アルコールが回ってきたからなのか、少しだけ落ち着いた。
 全てを打っちゃって、うたた寝しようと努めたが無理だった。毎日、薬を仕込まれ続けたから、若干、残っているのかもしれない。精神と肉体を落ち着けて、ソファに身体を沈めた。全身から力を抜いて弛緩した。
 はっきり言って、俺は恐怖した。何故かって?
 どう表現したら良いか分からないのだが、肉体の奥深くでドクドクと鼓動するものを感じたからだ。そうだ。「うずく」と表現できる何かだ。当然、今現在、男にペニスを突っ込まれている訳ではないのに、突っ込まれた奥の奥で、ないはずの刺激が鼓動を打っている。ズキズキと。
 ケツの穴の奥深くに意識を集中すると、それは明らかに、脈動していた。ドクドク、ドクドク、ドクドク。すると、あのときの得も言われぬ快感が、突然、立ち上がってきて、下腹部が熱くなった。
 恐る恐る自分自身を見つめる。それは、見たことがないほど、硬く雄々しく屹立していた。まるで、10代の頃のような勃起だ。肉体は弛緩しているのに、そこだけが硬く雄々しく屹立して、鼓動と連動して脈を打っていた。そして、ハッキリ感じた。ペニスの付け根の奥深くで、ドクドクと脈を打つ塊を。
 俺は観念して目を瞑った。視覚を自ら閉ざすと、奥深くに焼き付けられた刻印を感じることができた。目の奥が急に熱くなって、閉じた瞼の間から涙が溢れた。己を憐れむしかなかった。
 舌を絡めて指につばをまぶし、それで慰めた。想像以上の快感が突き抜ける。1週間、毎日、何時間も掛けて焼き付けられた快感が蘇ってくる。自ら穴を緩め指を招き入れ慰めた。指の腹が柔らかな粘膜を感じる。熱く爛れた粘膜が、指の刺激を受け入れた。もう我慢できなかった。夢中になって指を使った。ペニスを擦る必要なんかなかった。亀頭の刺激なんか比べ物にならない快感が粘膜からもたらされるからだ。
 だが、物足らなかった。どんなに激しく使っても所詮は指だ。
「あぁ。。。硬い、太い、チンポが欲しい。。。俺を。。。俺を。。。犯して」
 涙が溢れ続ける。悲しくて、虚しくて、悔しくて。だが、夢中で動かしている指の動きを止めることは無理だった。
 気配を感じて、瞼をそっと開くと、男が立っていた。淫乱女のように指で自らを慰める俺を、男は黙って静かに眺めていた。
 沈黙が部屋を支配する。俺達は見つめ合っていた。股の間で忙しなく動く指が、卑猥な音を立てる。ピチャピチャと。もっと太いのが欲しい。もっと硬いのが欲しい。俺を埋め尽くす雄々しい肉が欲しい。観念した。
「下さい。。。」男は黙ったまま見下ろしていた。目が物語っている。不十分だと。
「チンポ下さい。デカマラで俺を犯して下さい。チンポが欲しい。俺のマンコに突っ込んで」
 それが、肉体だけでなく、精神的にも男の性奴隷に堕ちた瞬間だった。

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