2022年3月31日木曜日

ディープな世界10

  翌日からも普段どおりの日々が続いた。いつものように大学に通い、いつものようにジムでトレーニングをこなす。翌日にジムに行ったときも豊先輩に会ったが、凄い気になる俺とは対象的に普段どおりの様子で面食らう。俺のペニスを強引にしゃぶり、大量に発射したザーメンを全て飲み干したのに関わらずだ。俺への接し方も普通だった。ひとりドギマギしている俺が馬鹿らしかった。

 1週間が過ぎて、先輩のことを必要以上に意識しなくなったある日、店長が先に上がり、他の人達も三々五々に帰ってしまっていたのだが、鏡とにらめっこしながら、コンセントレーションカールに集中していたので、先輩と二人きりになっていることに気づかなった。

 集中してトレーニングしていると、突然、先輩がベンチの後ろに座ってくる。

「続けろ」

 耳元で先輩が囁く。一瞬、びくりと身構えるが、カールを続けた。先輩が俺に密着してくる。そして、両手を前に回してきて、おもむろに乳首を摘んだ。身体がビクリと跳ねてダンベルを落としそうになる。

「わっ。何するんですか!危ないじゃないですか!」

「敏感だな。気持ちいいのか?」

 俺の非難などどこ吹く風で先輩が呟く。

「おお。さすが若者。いきなりフル勃起かよ。スパッツの前がパッツンパッツンだぞ」

 恥ずかしくて顔が上気した。

「休むな。続けろ」

 そんな無茶な指示をしながら、指先で愛撫してくる。自分でもびっくりなのだが、男の乳首がこれほど敏感なことに驚く。瞬間的に勃起するほど、凄い気持ち良かったのだ。

「あ。。。それは。。。」

 汗で濡れたスパッツが地肌に張り付いていて、触れるか触れないかの微妙なタッチで愛撫されると堪らなかった。

「いいなぁ。おまえ。そそる表情するなぁ。最高だよ」

「ちょっ。。。マジ。。。やめてください」

 2本の指の腹で軽く摘まれると腰砕けになりそうだ。

「先端が濡れてるぞ。もう溢れてるのか?意外と淫乱だな。おまえ」

 立ち上がりそうになったとき、「動くな!」とかなり大きな声で命令されて萎縮する。乳首への愛撫は止まらない。

「トレーニングが疎かになってる。続けろ」

 冷淡な声で命令されると俺は逆らえないで、渋々カールを続けた。

2022年3月30日水曜日

ディープな世界09

  あまりに衝撃だったので、何度も繰り返して申し訳ないが、先輩のフェラは極上だった。それは、経験がないチェリーだから比較する術もないのだけれど、少なくとも左手が恋人歴19年の俺にとっては、天井からタライが落ちてきて脳天を直撃したくらいの衝撃なのだった。

 気持ちよすぎて早く出したい衝動と、もっと長い間、この快感を味わっていたい衝動が俺の中で鍔迫り合いを繰り返している。ちょっと気を許したら持っていかれる程のタックルで、玉が収縮しながら上がってきて、下腹部の奥の方が鈍く痛い。

 フェラの快感とは別に中に突っ込まれた指先の動きを粘膜で感じていた。決して、気持ち良い訳ではなかったが、フェラの快感が際立って混乱する。徐々に早くなってゆく呼吸、胸が激しく上下し始め、下腹部の奥が迫り上がってくる。目を瞑ってイキそうになるのを耐え、発射の極限に備える。

「駄目。。。先輩。。。出そう。。。我慢できなくなってきた。。。出る。。。やめて」

 このままだと先輩の中に暴発してしまう。肩を押して先輩を引き剥がそうとするが、やめて欲しくなくて力が入らない。先輩は、俺が切羽詰まっているのを察知しているようだったが、全然気にしていない様子だ。中に発射してもいいのかな。もう無理だ。

 ケツの穴が収縮して先輩の指を締め付け、太腿が小刻みに痙攣を始める。脹脛が極限まで収縮してつま先立ちになる。

「あっ。。。出る。。。イク。。。イクイクイク」

 我慢できず、無意識のうちに先輩の頭を両手で抱えて、ガツガツと腰を振ってしまう。数回、腰を振り、奥まで突っ込んだところで大爆発した。何度も何度も子種が吹き上げ、体験したことのない快感が俺の下半身を持ってゆく。全身の筋肉がガチガチに収縮して、つま先立ちのまま固まっていた。まだ、子種を送り出す快感の余韻が下半身を占めている。

「はぁぁ。。。」

 心臓が口から零れ落ちそうな大きな息を吐いて弛緩する。慌てて先輩の顔を覗き込んだ。

「あっ。。。ごめんなさい。大丈夫です。。。か?」

 先輩はやっと俺を吐き出しニタリと笑んだ。

「凄い量だな。若者。美味かったぞ」

 いつものニヒルな表情に戻った先輩が、恥ずかしい追い打ちを掛けてきた。口を開けて見せて、そこに何もないことを示しながら。

「え?飲んじゃったんですか?」

「ずっと欲しかったものだからな。一滴も零す訳ないだろ」

「マジっすか。。。」

「粘りが強い濃厚で、苦味と青臭みがなんとも言えず美味である」

「・・・・・」

 その味覚と感覚は共有できそうもなかった。


ディープな世界08

  筋肉達磨の逞しい男がが俺の前に跪いて、ペニスを美味そうにしゃぶっている。今日この日まで想像もしたことがなかった驚愕の現実に放り込まれた。どうせなら可愛い女の子にして欲しいと思うが、気持ちいいのも事実で、現実の快楽を優先してしまう。

 目を瞑って下腹部に神経を集中させる。経験したことのない快感が、ドクドクと下腹部の奥の方がうごめく感覚だった。ボディローションを手に取った先輩の指が再び後ろを伺う。股を締めケツタブを引き締めて侵入を拒絶する。だが、先輩の舌が亀頭の裏を舐め上げた瞬間、耐えきれず弛緩してしまった。すかさず先輩の指が割れ目の奥に達し、肛門の柔らかな粘膜を撫でる。ぞわりと鳥肌が立った。しかし、恐ろしいことに、それは、嫌悪感でも恐怖でもなく、さらなる快感を秘めた愛撫だったのだ。

 だが、これ以上、先輩に身を任せる危険を感じていた。俺は、再び大臀筋と大腿筋に力を込めて、先輩の腕と指先の自由を奪う。掴んでいた両肩を少し押して、無理やり身体を離した。強引にフェラチオを中断された先輩は、少しムッとした顔をした後で、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

『力比べをしようというんだな?ここまで許しておいて、俺の暴走が止まるはずがないだろ』

 そんな表情だ。ギンギンに勃起したペニスを見せつけるように腰を突き出した後、先輩が俺の玉を握りしめた。あまりの痛さに悲鳴を上げる。

「痛い!何するんですか!」

 あまりの痛さに防御が疎かになる。そして、その瞬間を見逃さず、先輩の指が侵入した。突然のことだったので反撃できなかった。

「痛いって。やめてください。無理やりなんて酷いじゃないですか」

 先輩は何も言い返さず、俺の半勃起になったペニスを口に含んだ。と同時に指先で奥をまさぐる。そんなところに指を突っ込んでも意味があるなんて思えなかった。代用として使うのは知っているが、ネットにたくさん落ちているデマのひとつだと認識していた。

 先輩のフェラは匠で、的確に俺の気持ち良いポイントを突いてくる。突っ込まれた指は、1本だったからか、痛みは既に引いている。だが、その指先の動きが俺を興奮させることもなかった。痛くないなら、先輩のモノを突っ込もうとしないのなら、別に良いかという気分になった。それほど、先輩のフェラは極上だったのだった。

「無理ですからね。後ろはそれ以上」

 俺をしゃぶりながら先輩は頷いた。

2022年3月29日火曜日

ディープな世界07

  先輩は完全勃起の俺のペニスを喉の奥まで咥え込んで緩やかに頭を前後させた。亀頭だけが口の中に残るまで頭を引き、先輩の唇が俺の下腹部に接触するまで飲み込む。たぶん、喉までペニスが達している筈で、少し辛そうにしながらも嘔吐することなく飲み込んでしまうのが凄い。いや。凄いとか観察している場合か。

「先輩。豊先輩。。。やめて下さい。。。」

 先輩を拒否する言葉は弱々しい。先輩は動きを止め、俺を咥え込んだまま上目遣いに俺を見つめ返す。『気持ちいいんだろ?しゃぶるくらいいいだろ?』先輩の瞳が物語っている。実際に俺は強く拒否できないでいるし、先輩を無理やり引き剥がして、なじる勇気もない。

「でも。。。男同士だし。。。」

 奥まで再び飲み込まれて、粘膜に包み込まれながら擦られる快感に甘い鼻息が漏れる。突然、先輩が口を離し俺を開放した。少しホッとしながらも、なんとなく残念な気持ちになる。男の口だとしても直接的な愛撫が気持ち良かったのも事実なのだ。躊躇を読んだらしい先輩が、俺の手を握りしめ、シャワー室に引っ張ってゆく。少し抵抗したが先輩は諦める気がないらしく、半ば強引に連れ込まれた。

「俺はゲイだ。男が好きだ。おまえが好きだ。お前を気持ちよくしたい。駄目か?」

 シャワー室で壁ドンされて囁かれた。今、先輩を拒絶しないとズルズルとヤラれてしまいそうだった。だが、恋愛とは関係ないところで先輩が好きだったし、逞しい大人として憧れてもいた。そして、もし、ここで拒絶すれば、このジムを去らなければならないことになると計算もしていた。それは嫌だったのだ。

 シャワーの栓をひねり温い湯にふたりで打たれる。薄い化繊のスパッツが湯に濡れて肌に密着する。まるで両生類の濡れた肌のようだ。生地越しに先輩のペニスが顕になり、俺はドキリとした。普段の力ない状態は何度も目にしているが、これほど雄々しく太々しい大人のペニスを見たのは初めてだったから。

 先輩は、再び俺を飲み込んだ。無言を同意と受け取ったようだ。心の準備がないままに、濃厚なペッティングに突入してしまったようだ。気持ちが良いのは事実だし、特に嫌悪感もなかったから、されるが儘になってゆく。渋々ながらも受け入れた瞬間、快感が倍増したようで、思わず吐息が漏れた。すげぇ気持ちいい。

 シャワーに濡れながら淫靡な情事をしている後ろめたさが、逆に俺を興奮へといざなう。先輩の両肩を握りしめて、快感に耐えた。気を許したら、すぐにでも射精してしまいそうなくらい気持ちよかったのだ。

『いいぞ?いつでも射って』

 俺は首を振る。どうせ、背徳的な淫らな行為に堕ちて、快感に溺れるのなら徹底的に貪りたい。そうだ。俺はまだ女の良さも知らないのだ。たまたま、初体験の相手が男だっただけ。そう思うことにした。

 考えてみれば、肉体改造に嵌ったのは、逞しい男の肉体に憧れたからなのだ。グロテスクなそれではなく、美しくセクシーな肉体に。ひょろりとした球技が不得手な男ではなく、憧れの視線を送られる男になりたかった。先輩の肉体は、正にそれで、惚れ惚れするほど美しくセクシーな筋肉のバランスを体現していた。その憧れの気持が愛情になることは、たぶん、ないと思うけれど、先輩の溢れんばかりの欲情に流されてしまったようだ。

 先輩の長い指が後ろをまさぐる。流石に、そこに突っ込まれることには抵抗があった。太腿と尻に力が入り、先輩を拒絶した。身を固くした俺を感じて、それ以上、強引にすることはなかった。

 粘膜接触の快感に浸り、再び肉体が弛緩する。先輩の舌使いが絶妙で、さらに喉の粘膜で締め上げられて、崩れ落ちそうな快感が背筋を這い登ってゆく。

「あぁ気持ち良い。。。」

 思わず本音が漏れてしまった。


ディープな世界06

  その日、俺は豊先輩のベンチプレスの補助に入っていた。トレーニングしていたのは、俺達だけで、用事があった店長は先に帰っていた。先輩は、重量を上げて、まだ、回数が少なかったので、万が一のために補助をする。バーベルを持ち上げると同時に脚を踏ん張り、全身の筋肉が収縮する。何度かバーベルを持ち上げ、極限まで筋肉を使った最後の回に、バーベルを持ち上げ受けに戻す。先輩の筋肉が一回り大きくなったように感じた。

 最大限まで筋力を使い切った先輩はゼイゼイと肩で息をしている。ふと見た視線を俺は外せなくて固まってしまった。薄いスパッツの股間が巨大に膨らんでいたのだ。他人の勃起を見た経験がないので、こちらの方がドギマギしてしまう。

 たぶん、全身の筋肉が一気に収縮した後に、緊張から開放された心臓が、爆発的な血流を肉体全体に送り、無意識のうちにペニスが膨張したのだろう。俺的に、それなりの納得が得られる結論に安心した訳だが、ベンチに寝転んだままの先輩の視線が俺の股間に集中していることに気づく。先輩の熱い視線が俺を捉えて放さない。

 確かに、俺のモノはでかい。練習後に筋肉チェックしたり、シャワー後の素っ裸でバスタオルを使う俺のそれを店長や先輩たちは何度もからかった。まだ、一度も使ったことがないピンク色の亀頭や半分皮を被った様子を初々しいと楽しそうに弄るのだ。そういうノリは、体育会系ではよくあることだと理解していたから、照れ笑いでスルーするしかないのだけれど。

「あぁもう無理だ。我慢ならん」

 豊先輩がベンチから身体を起こし、俺の方に突進してくる。思わず後ずさりした俺だったが、壁際まで追い込まれて逃げ場を失う。他に誰もいないので、助けを呼ぶこともできなかった。

「え?何?先輩。。。どうしたんですか?」

 だが、先輩からの返答はなく、有無を言わせずスパッツを引きずり降ろされる。そして、汗臭い俺のペニスを先輩はパクンと咥え込んでしまった。その衝撃の快感に先輩を拒絶する力は弱くなる。たとえ俺が必死に抵抗したとしても先輩の筋力の前には無意味だったかもしれないけれど。

 男にしゃぶられることを一度も想像したことなどなかったが、熱く濡れた粘膜が俺に纏わりついてくる。それは、手を使って簡単に済ませるオナニーなど比べ物にならない快感だった。思わず目を瞑って快感に耐える。太腿が震えるほどの快感が体中を巡った。

 我に返ったとき、自身の股間が完全勃起状態であることを知って、呆然とした。だって、気持ちよかったんだ。男の人とはいえ、初めてだったんだ。こんなに気持ち良いことしてもらったのは。でも、やっぱり豊先輩は男だし俺も男だ。そんなの変だ。いや、そういうのが好みの人もいることは知ってるけど、俺は女の子が好きだし。違う。

 勃起してしまった自身を取り繕うために、俺の思考は頭がクラクラするほど暴走していた。

ディープな世界05

  大学に通い、全く新しい生活を送りながら、GWを過ぎる頃には落ち着きを取り戻していた。高校のそれとは比較にならない強力な勧誘を掻い潜り、結局、クラブやサークルには所属しないことにした。ジムには毎日のように通っているし、せめてサークルには入った方が良いと勧められたのだが、同年代の人間との付き合いが、苦手になって幾久しい。

 決められたメニューを丹念にこなし、その日の成果を鏡の前で確認する。先輩や店長がチェックしながらアドバイスをくれる大切な時間だ。2時間ほどトレーニングに没頭し、一通り汗をかいたのでシャワーを浴びる。トレーニングマシーンやダンベル等の器具は充実しているが、個人経営のジムだから、風呂やシャワー室、パウダールームなどの設備は簡単なものだ。風呂はなく、シャワー室はひとつで、パウダールームは脱衣かごが入口に置いてあるだけだ。

 先輩に、先にシャワーを使う了承を得て、ウェアを脱いで籠に突っ込んだ。熱めのシャワーを頭から浴びていると1日の疲れも一緒に流れていくように感じる。借りている部屋にも風呂場はあるが、ここのシャワーで済ませてしまうことが多かった。シャンプーで短髪を軽く洗ってから、ボディローションを全身に塗りたくって汗の成分を流してしまう。たまに、ナイロンタオルで擦ることもあるが、大抵は手のひらで洗ってしまう。

 シャワーを終えて、カーテンを開けると眼の前に豊先輩が立っていてびっくりした。

「あっ。。。お先です。すみません」

「気にせんでくれ。先輩だから優先する理由はない。しかし、おまえ益々良い身体になってきたな。随分と胸筋が付いてきて、格好良くなってるぞ」

 先輩たちは、自分の筋肉を触るのと同じように他人の筋肉にも気軽にタッチする。今流行のセクハラぽいタッチというより、ほとんど魚の新鮮さや牛肉の差しの入り方を吟味するような手触りだった。

「ますます美味そうになってきた。うん。頑張れよ」

 そういって笑う。ジムの名札は道場形式で、表が赤色、裏が白色の金属プレートで、出欠を表すのだが、通常の道場なら段で顕されるクラス分けは、A~C、数字の1~5。つまり、最上級はA5で、食用牛肉と同じである。

 当然、店長はA5、豊先輩はA2、俺はB4のクラス分けである。ここのジムに在籍しているアスリートは約50人で、常時、ジムで会うのは30人くらいだろうか。先輩でも俺より下のクラスは大勢いるので、それなりに評価されているのが分かる。

 そして、順調に月日は巡り、2回生になった春に事件は起こった。


2022年3月28日月曜日

ディープな世界04

  店主は、俺の筋肉の弾力を確かめ、力を入れさせて、その感触も確認する。ポージングさせ、それぞれのパーツを丁寧に計測してゆく。

「ふむ。俺がおまえ用のメニューを考えておく。明日から来れるのか?」

 すでに、契約は当然の方向である。これほど、熱心なトレーナーが居るのなら断る理由はないのだが。

「はい。まだ、荷物も解いてないので、ウェアを探しておきます。大学のオリエンテーションは、来週の月曜日ですから、それまではフリーです」

「そうか、じゃ、明日メニューを説明する。大胸筋と僧帽筋、三角筋をもっと増やした方がいいな。下半身は十分な領域に達しているし、これ以上はバランスが崩れるから、減らない程度にしておくか。。。」

 店長は一人の世界に埋没し、俺の身体を触りながらメモを繰り返す。

「お?楽しそうなことしてますね。新人っすか?」

 突然、声を掛けられるまで気づかなかった。

「おぅ。豊。そこの新入生らしい。中々の仕上がりだろ。面倒みてやってくれや」

「そうっすね。高校卒業時点でこれって、中々ですね。確かに。若いだけあって、柔軟な良い筋肉してんなぁ。おまえ。名前は?」

「はい。富田隼人です。よろしくお願いします」

「隼人か。こちらこそ、よろしく。俺は、棟方豊。塾経営の自営業。独り暮らしの32歳。以上」

「そろそろ服着ていいぞ」

「はい。ありがとうございます」

「おまえ。礼儀正しいな。部活は?」

「いえ。中学まで帰宅部で、高校でも天文部でした」

「何?じゃどうやって、そこまで鍛えたんだよ」

 俺は筋力トレーニングに嵌るまでの経緯をふたりに説明する。

「へぇ。市営のジムで、専属もいないで、偉いじゃないか」

「ありがとうございます。もっと、先輩みたいな格好いい身体になりたいので、鍛えてください。よろしくお願いします」

「いやいや。煽てるのまで上手いなんて。近頃のガキは」

 こうして俺は、そのジムの一員として受け入れられた。だが、先輩が俺の身体を舐め回すようにしながら、半勃起していたことは、まだ知らない。


ディープな世界03

  高1で目覚めた俺は、まず、トレーニングの本を買い込み、トレーナーが運営するサイトで勉強した。正しい知識を得ることが、怪我なく、理想の肉体を得るための近道だと考えたからだ。そして、トレーニングセンターに通って、トレーナーに教えを請い、体力測定、目標を定めて、作成してもらったメニューに従って日々努力した。

 最初の数カ月は目覚ましい成果が得られなかったのだが、我慢してメニューをこなした。すると半年過ぎた頃から、腕や胸、腹筋、太腿など全体の筋力が増していくのを感じ、明らかに身体が分厚くなった。変化が見え始めると楽しくて、ますます嵌ってゆく。

 トレーニング後には、自宅でパンプアップしてゆく己の素っ裸を姿見に写して、ポーズを取りながら次に増量する部分を確かめるのが常だった。そして、大学に入る頃には、見違える肉体を手に入れ、ジムのトレーナーから大会にでないかと誘われるまでになっていた。

 大学に入学し、親元を離れて真っ先にしたことは、部屋の片付けではなく、近くのジムを探すことだった。都合の良いことに、下宿と大学の間に、こぢんまりとしたジムを見つけた。そこは、大手のチェーン店ではなく、個人経営のジムで、店主の若い頃の写真が額縁にいれられて飾られているような店だ。だが、店主自らトレーニングに励んできただけあって、マシンやバーベル類は本格的な品揃えで、何より店主が熱かった。

 ちょっと覗いた学生を掴まえて、トレーニング論を延々とぶち、さらには、ウェアを貸すから、普段のメニューを見せてみろと言い始める始末だ。強引な店主に勧められるままに、上半身裸になった時点で、ストップを掛けられた。無理やり奥の壁一面が鏡になっているコーナーに連れて行かれ、全裸になるように命令される。面食らってる俺に斟酌する素振りもなく、店主は腕を組んだ仁王立ちである。

「早くしろ。素っ裸になって、そこに立て」

「え。。。でも」

「何を恥ずかしがる必要がある。男同士だろ?それに、お前の肉体は、それなりに自負もあるだろ?」

 店主の視線は真面目で本気に溢れていた。その有無を言わせない態度に負けて、俺はズボンと靴下を脱ぐ。だが、最後のアンダーウェアを脱ぐことを躊躇していた。しかし、店主は容赦ない。

「さっさと脱げ。金玉ぶら下げてるんだろ?」

 ええい儘よと下着を脱ぎ、素っ裸になった。俺は高校生まで部活をしてこなかったから、人前で裸になることに慣れていないのだ。だが、店主の命令には逆らえない何かがあった。脱いだ以上、股間を手で覆うような無様はしたくない。少し足を開いて立ち、両手を腰に当てた。筋肉に力を入れない脱力した状態だ。

「ほう。。。誰かに指導を受けた訳じゃないって言ってた割には、とてもバランスが良いな。まだまだ、足りないところもあるが、綺麗な身体してるじゃないか」

 全日本でも上位に入った経験のある店主に褒められて俺は、素直に嬉しかった。


ディープな世界02

 トレーニングを始めた切っ掛けは、高校生の頃にあったある出来事だった。

 俺は子供の頃から運動音痴で、特に球技が苦手だった。小さい頃から学校の友だちは、サッカーに夢中だったけれど、最初はドンマイなんて笑っていた奴らも、あまりに鈍い俺がいると楽しめなくなったみたいで、徐々に誘われなくなった。身体を動かすことが嫌いな訳じゃないのだけれど、運動が得意な奴らとは、段々と疎遠になっていった。

 成長期の男子は、声変わりし、陰毛が生え、皮が剥けて、どんどん筋肉質になってゆく。もりもりご飯を食べて、激しい運動で筋肉を使うことで、骨が太くなり、肉体は分厚く変化してゆく。だが、積極的に身体を動かすことがなくなった俺は、身長が伸びる一方で、がっちりと男らしい体躯とは程遠い感じだった。悩み多き頃、理想と現実のギャップにも悩んでいた。

 体育の時間にチャレンジするも相変わらず球技は下手くそで、運動系の部活に入部するのは無理そうだった。唯一、得意と言っても良い水泳は、手足の長さを十二分に活かし、それなりのタイムも出たけれど、部活に入っていないので体育以外で泳ぐ機会がなかった。

 水泳の授業では、スイムウェアだけの裸になる訳だけれど、他の男子がガッチリした逞しい体格に見る見る変化してゆく中、俺は相変わらず肉が薄いぺったんこな身体で、一人恥ずかしい思いに苛まれていたのだった。せめて、本格的に水泳の練習をして、それなりの肉体になりたくて、区役所に併設された市民プールに通うことにした。

 一念発起して市民プールに望んだ初日、プールとは別にトレーニングルームがあることを知った。ガラス壁から中を覗くと、高齢者や女性を中心とした多くの人がバイクやランニング、マシンで体力づくりに頑張っている。そして、その中に、20代後半くらいの男の人がダンベルやバーベルで運動している姿があった。汗に濡れた彼の背中、胸、腕、太腿、臀部、脹脛は、驚くほどの筋量で、長年のトレーニングの結果であることが推測できた。

 そのとき、俺はこれだと思った。マシントレーニングなら球技とは違って、俺にもできそうだ。そして、俺は肉体改造に嵌った。