2022年10月12日水曜日

雨のち曇り時々晴れ04

 普通なら、この辺で撤退している状況だろうと思う。もし、彼がノンケだった場合、これ以上、彼にしつこくアプローチすると、スタッフに苦情が上がる危険性があった。だが、あまりにも彼は、俺の理想に近く、何よりも纏っている空気感が気になって仕方なかった。

 どうやったら距離を縮めることができるのだろうか。スタッフ以外の人とジムで会話している姿を見たことがなかったので途方に暮れてしまう。自宅マンションや買い物をするスーパーも知っているけれど、顔見知りでもない男に声をかけるシチュエーションが思い浮かばない。

 ジム帰りに、どうしたものかと思案しながら買い物をしていた。週に3回はジムでトレーニングしているからといって、ささ身ばかりを食べているわけではない。冷凍食品が嫌いで、自分で料理する楽しみがあるから、野菜や魚類、肉類などの素材を買って帰る。大概は、スーパーに並んでいる食材を見ながら、その日のメニューを考える。

 茄子とピーマンが安かったから、今日は、麻婆茄子にでもしよう。あと、生姜、ひき肉、ネギを買い足す。一品では寂しいから、副菜に納豆と冷奴を買った。ふと見ると、例の彼が果物の陳列棚で思案顔だ。どうやら、シャインマスカットを買うかどうか迷っている。たしかに、一人暮らしの男にとって、一房は多すぎる。

 横に並んで、一緒にシャインマスカットを眺めた。一房、約500gで1800円なり。艶やかな黄緑色の粒が大きく、食べごたえがありそうだ。

「たしかに。。。男のひとり暮らしに、一房は多いなぁ」

 つい、ボソリと呟いた。

「ですよね。。。値段は別にいいけど、食べきる前に痛みそうです。。。」

 思わずといった感じで彼が受けた。そろりと互いに見合い、ニコリと笑う。それだけで、意思は通じた。

「じゃ。僕が買いますから、半分っこします?」

「いいですか?」

 互いの意思を確認して、レジに向かった。

「ジムで一緒の方ですよね?」

 レジに並んでいる間に、会話を交わす。

「はい。家も近くなんですね」

「たまに、駅やスーパーでお見かけします」

「お互い男やもめ。。。ですよね?」

「ええ。。。絶賛、独り暮らし。年齢すなわち、彼女いない歴です」

「同じくです。。。」

「え?そんな男前なのに。。。またまたぁ」

「ホントですよ。興味ないし」

 マジですか?ワンチャンありですか?それとも、恋愛に興味がないって意味ですか?

 とにかく、彼と会話する切っ掛けを得たことに舞い上がる。店員にハサミを借りて、均等になるように房を分け、備え付けのビニール袋に入れて渡した。半分の900円を受け取った。

「じゃ。また、ジムで」

 そう言って、互いに会釈して別れた。帰り道の歩調がスキップ一歩手前だったことは言う迄も無い。 

2022年10月3日月曜日

雨のち曇り時々晴れ03

 あれから1週間ほど経ったある日に、トレーニングジムで彼と遭遇した。俺がマシーンルームに入って行ったときに柔軟体操をしていたから、少し先に来ていたようだ。いつものトレーニングメニューを流しながら彼の所作を目で追う。彼も概ねいつものトレーニングメニューのようで、特に頑張る風でも、手抜きをする風でもない。誰かと会話もせず黙々とマシンを動かし、規定回数に達したら次のマシンに移るを繰り返す。表情は、喜怒哀楽が読めないすまし顔だ。そんなルックスも体格もどストライクな俺は、沿った瞬間に浮き上がる乳首や股間の膨らみが気になって運動どころではなかった。ややもすると自分の股間が反応しそうになるのを必死で鎮めなければならないのだった。

 彼はクランチが最後のマシンのはずだ。いつもあれが終われば、シャワーを浴びて、そそくさと帰る。俺は、彼が運動を終える前に、マシンから降りて、ロッカールームに移動した。さっさと服を脱いで、シャワーを浴び始める。いつもなら、壁に向かって頭から湯を浴びるのだが、彼がやってくるのは想定済みなので、扉の方を向いて頭を洗う。

 ここのブースは、互いの間仕切りは天井までだが、扉部は脚と頭が見える。案の定、彼がブースの前を通って、隣のブースに入った。彼の全裸が拝めてラッキーな気分だった。

 頭と身体を丹念に洗った後、バスタオルを腰に巻いて、鏡の前でドライヤーを使う。時間を置かず出てきた彼も同様に隣に座ってドライヤーを使う。他にも席はあるのに、わざわざ俺の隣に座ったことを心のなかで喜んだ。鏡越しにちらりと彼を伺う。彼は、こちらに視線を向けておらず、ふわっとした視線で鏡を見ながら、髪を乾かした。

 腕を動かすたびに、胸や腕の筋肉が収縮して、艶やかな肌の濡れた感じと相まって半勃起してしまう。ドライヤーの電源を切る瞬間、彼の視線が鏡越しにこちらを見て、絡み合った。俺は慌てて視線を外し、ドギマギした。彼は、それ以上に何の反応も示さず、席を立ち、服を着て、出ていった。

 心臓がバクバクと鼓動を打ち、上気して耳まで真っ赤になっている。意味もなくドライヤーを動かしながら、誰もいないロッカールームでひとり焦っていた。

 バレたかな。。。