2019年9月4日水曜日

季節外れの花火01

 ほろ酔い気分で夜道をそぞろ歩いていた。残暑も治まり心地よい風が火照った頬に気持ちよかった。つい過ごしてしまい終電はなくなっていた。歩いて帰っても1時間くらいのもだから、酔いに任せて歩いて帰ろうと思う。夜の街は比較的落ち着いていた。空には少ないけれど星が瞬き、満月に近い月が浮かんでいる。潮騒のような遠い騒音がさわさわとして心地よかったりする。
 人影がなくてなんだかこの街に俺ひとりしかいないような錯覚を覚える。淀川の橋をとぼとぼと歩いて渡る。オレンジ色の街灯が一列に並んでいる。空気が冷たいせいか街の明かりには透明感がある。堤防から河川敷は街灯もなく漆黒の闇に包まれていた。雑草が生い茂った堤防道に入る。水面に対岸の明かりが映り込んでゆれている。貨物列車が轟音を響かせて走り去る。
 しばし訪れた静寂の中で、突然赤い玉が中空に舞い上がった。続いて緑、赤、緑。季節はずれのわびしい花火が上がっていた。俺は河川敷に下り、堤防に腰掛けた。次の橋の手前だろうか。街金の巨大な黄色い看板が放つ光で、数人の陰が蹲っているのが分かる。遠いけれども男女の騒ぐ声も聞こえた。こんな街でも夜は余計なものを覆い尽くし、静寂が訪れるのだ。川を渡る風は決して良い香りはしないが、草いきれの青い香りは懐かしいものだった。
 呆然と対岸の街の明かりを眺めていると普段の忙しない生活を忘れてしまいそうだ。セブンスターを取りだし火を付ける。吐き出した煙が風になびき拡がっていく。久しぶりに開放感を味わった気がする。河原の暗さにも目が慣れてくると、意外と人が多いことに驚いた。暗闇の中で歩き回っている人が5・6人もいるだろうか。その内のひとりが堤防に座り込んでいる俺の方に近づいてきた。胡散臭い視線を投げて寄越し、少し歩度を緩めて俺を観察しているようだった。粘りを帯びた視線に違和感を感じつつも、俺はゆったりとタバコを燻らせた。後ろを振り返りながら男は過ぎ去った。
『何をしてるんだろうか?夜の散歩?』
 動き回っているのはひとりひとりで、全くの別行動のようだ。しかし、ある一定の範囲を行き来しているようだった。俺は淫靡な予感を感じ、つい興味を持ってしまった。数人が野球のバックネット裏に固まっている。俺はタバコを消し、立ち上がると彼らにゆっくりと近づいていった。